役員退職金の基礎知識|功績倍率の考え方と、支給に向けた資金準備(生命保険の活用を含む)
「将来、自分の会社から退職金を受け取りたい。いくらまでなら経費になるの?」「退職金の原資を、経費にしながら積み立てる方法はある?」「生命保険で準備するのは本当に得なの?」——小さな会社の社長にとって、役員退職金は会社に残したお金を、税負担を抑えて個人に移すための大切な手段です。
ただし、役員退職金はいくらでも経費にできるわけではなく、「不相当に高額」と判断された部分は損金になりません。また、一度に大きな金額を支払うため、何年も前からの資金準備が欠かせません。
この記事では、役員退職金の金額の目安となる功績倍率の考え方を詳しく解説したうえで、支給に向けた資金準備の方法(会社に利益を残す、生命保険、共済など)を比較し、支給する年の「出口」の合わせ方まで、全体像をわかりやすく整理します。
なお、税法や保険の税務上の取扱いは改正されることがあります。本記事は執筆時点の情報をもとにしていますので、実際に手続きをする際は、国税庁などの最新情報を確認し、税理士に相談するようにしてください。
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役員退職金の全体像
役員退職金には、会社と社長個人の両方にメリットがあります。
| 立場 | メリット | 注意点 |
|---|---|---|
| 会社 | 適正な金額であれば、支給した年の損金になる | 「不相当に高額」な部分は損金にならない。一度に多額の資金が必要 |
| 社長個人 | 退職所得として、退職所得控除と2分の1課税(一定の場合を除く)が受けられ、給与よりも税負担が軽い | 役員等としての勤続年数が5年以下の場合は、2分の1課税が適用されない部分がある。ほかの一時金との受け取り時期によっては控除が調整される |
つまり、役員退職金を上手に使うためのポイントは、①損金として認められる適正な金額を決めることと、②その金額を支払える資金を計画的に準備することの2つです。
功績倍率の考え方
功績倍率法の計算式
役員退職金が「不相当に高額」かどうかの判断で、実務上もっとも広く使われているのが功績倍率法です。
役員退職金の目安 = 最終報酬月額 × 役員としての在任年数 × 功績倍率
たとえば、最終報酬月額80万円、在任年数25年、功績倍率3.0倍なら、80万円 × 25年 × 3.0 = 6,000万円が目安になります。
役職ごとの功績倍率の目安
功績倍率は法律で決まっているものではありません。同業・同規模の会社の支給状況や、過去の裁判例などを参考に判断されます。実務では、次のような倍率が参考にされることが多くあります。
| 退職時の役職 | 功績倍率の目安 |
|---|---|
| 代表取締役社長 | 3.0倍程度 |
| 専務取締役 | 2.4倍程度 |
| 常務取締役 | 2.2倍程度 |
| 取締役 | 1.8倍程度 |
| 監査役 | 1.6倍程度 |
※あくまで実務上の目安で、この倍率なら必ず認められるというものではありません。業種、会社の規模、本人の貢献度などによって個別に判断されます。
このほか、特に功績が大きかった役員について、一定の割合(たとえば30%以内など)を上乗せする功労加算を退職金規程で定めることもあります。ただし、上乗せした金額も含めて、全体として「不相当に高額」でないことが必要です。
また、功績倍率法のほかに、同業・同規模の会社の役員在任1年あたりの退職金の平均額に在任年数をかける1年あたり平均額法という考え方もあります。最終報酬月額が、それまでの貢献に比べて極端に低い場合などに用いられることがあります。
「最終報酬月額」の落とし穴
功績倍率法では、退職直前の報酬月額が金額を大きく左右します。そのため、次のような点に注意が必要です。
- 退職直前に報酬を急に上げる:退職金を増やすためだけの増額とみなされると、最終報酬月額として認められず、否認されるおそれがある。また、役員報酬の期中の増額は、それ自体が損金不算入の問題にもなる
- 業績悪化などで報酬を大きく下げていた:最終報酬月額が低くなり、在任中の貢献に比べて退職金の目安が小さくなる。規程で計算方法を工夫しておくことも検討する
- 役員報酬を低く抑えすぎている:社会保険料や税金を抑えるために報酬を低くしていると、退職金の目安も小さくなる
役員報酬の決め方と、期中に変更した場合の扱いについては、「役員報酬の決め方と『定期同額給与』のルール」で解説しています。
「在任年数」の数え方
- 功績倍率法で使うのは、役員として在任していた年数。個人事業主だった期間や、従業員だった期間は、原則として含まれない(従業員から役員になった場合の扱いは規程で定めておく)
- 1年未満の端数は、1年に切り上げると退職金規程で定めておくのが一般的
- 個人事業から法人成りした場合は、法人の役員としての在任年数から数える
法人成りを検討している場合は、早く法人化するほど在任年数が長くなるという面もあります。法人成りの判断については「法人成りは所得いくらから得になるか」で解説しています。
支給に向けた手続きと、損金にするタイミング
役員退職金規程と株主総会の決議
- 役員退職金規程を作る:計算方法(功績倍率法など)、役職ごとの倍率、在任年数の数え方、功労加算、支給の方法などを定め、株主総会で承認しておく
- 退職時に株主総会で決議する:支給する金額(または規程にもとづいて取締役会などに一任すること)を決議し、議事録を作成する
- 源泉徴収をして支払う:本人から「退職所得の受給に関する申告書」を提出してもらい、所得税と住民税を源泉徴収・特別徴収する
規程は、退職の直前ではなく、早めに作っておくことが大切です。直前に作った規程は、退職金の金額を後付けで正当化するためのものと見られるおそれがあります。
損金にするタイミング
役員退職金は、原則として株主総会の決議などで金額が具体的に確定した日の属する事業年度の損金になります。ただし、実際に支払った日の属する事業年度に損金経理(費用として処理)した場合は、その年度の損金にすることも認められています。分割で支払う場合なども含め、どの年度の損金にするかは、資金準備の「出口」とあわせて計画しましょう。
退職せずに退職金を受け取る「分掌変更」の注意点
会社を完全に辞めなくても、代表取締役から非常勤の取締役になる、報酬が大幅に(おおむね50%以上)減るなど、役員としての地位や職務の内容が激変した場合は、実質的に退職したのと同じとみて、退職金として扱える場合があります(分掌変更による退職給与)。
ただし、肩書きを変えても、実際には引き続き経営の中心にいる(取引先との交渉や、重要な意思決定をしているなど)と判断されると、退職金ではなく役員賞与とされ、損金にならないおそれがあります。税務調査でも問題になりやすい論点なので、事業承継などで検討する場合は、必ず税理士に相談しましょう。
支給に向けた資金準備の方法
役員退職金は、数千万円単位の資金が一度に必要になることもあります。主な準備の方法を比べてみましょう。
| 方法 | 掛金・積立の扱い | 受け取り・解約時 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 会社に利益を残す(内部留保) | 法人税などを払った後の利益を積み上げる | ― | もっともシンプルで自由に使える。資金を事業に使ってしまわないよう、口座を分けるなどの管理が必要 |
| 法人向けの生命保険 | 保険の種類や解約返戻率に応じて、保険料の一部または全部が損金 | 解約返戻金は益金(雑収入) | 保障を確保しながら資金を準備できる。課税の繰延べであり、解約のタイミングが重要 |
| 経営セーフティ共済(倒産防止共済) | 掛金は全額損金(年240万円まで、総額800万円まで) | 解約手当金は益金 | 本来は取引先の倒産への備え。40か月以上で掛金の全額が戻る |
| 小規模企業共済(社長個人が加入) | 掛金は社長個人の所得控除 | 一括受取は原則退職所得 | 会社の資金ではなく、社長個人の退職金を準備する制度。会社の退職金と合わせて考える |
※中小企業退職金共済(中退共)は、原則として従業員のための制度で、役員は加入できません(従業員としての身分を持つ兼務役員を除く)。
経営セーフティ共済の仕組みは「経営セーフティ共済(倒産防止共済)」、小規模企業共済については「iDeCo・小規模企業共済・国民年金基金の比較」で解説しています。
生命保険を活用する場合のポイント
保険料の損金算入は「最高解約返戻率」で決まる
会社が契約者で、社長を被保険者とする定期保険などの保険料は、2019年の通達の改正以降、最高解約返戻率(保険期間中に解約したときの返戻率の最高値)に応じて、損金にできる割合が決まります。
| 最高解約返戻率 | 保険料の扱い(主な内容) |
|---|---|
| 50%以下 | 原則として全額損金 |
| 50%超〜70%以下 | 保険期間の当初4割の期間は、保険料の40%を資産計上(60%は損金) |
| 70%超〜85%以下 | 保険期間の当初4割の期間は、保険料の60%を資産計上(40%は損金) |
| 85%超 | 当初の一定期間は、保険料に最高解約返戻率の90%(11年目以降は70%)をかけた金額を資産計上 |
※被保険者1人あたりの年換算保険料が一定額(30万円)以下の場合の特例など、細かなルールがあります。資産計上した金額は、一定の時期以降に取り崩して損金にしていきます。実際の扱いは保険の内容によって異なるため、保険会社や税理士に確認してください。
保険は「節税」ではなく「課税の繰延べ」
保険料の一部が損金になっても、将来解約したときには、受け取った解約返戻金が益金(資産計上額との差額などが収入)になり、法人税がかかります。つまり、保険で税金が「なくなる」のではなく、税金を払う時期が後ろにずれるだけです。また、解約返戻率は100%を下回ることが多く、払った保険料より戻ってくる金額が少ないのが一般的です。
そのため、保険で退職金を準備する場合は、解約返戻金を受け取る年を、役員退職金を支給する年に合わせるのが基本の考え方です。退職金という大きな損金と、解約返戻金という益金を同じ年度に計上すれば、解約返戻金に対する税金を抑えられます。
保険を選ぶときのチェックポイント
- 保障が本当に必要か:社長に万が一のことがあったときの借入金の返済や、事業の継続資金など、保障としての目的を先に考える
- 解約返戻率がピークになる時期:退職を予定している時期と合っているか
- 資金繰りへの影響:保険料は毎年の固定的な支出になる。業績が悪い年も払い続けられるか
- 途中解約のリスク:返戻率がピークになる前に解約すると、元本割れが大きくなる
- 名義変更などの扱い:保険契約を会社から個人に名義変更して退職金の一部とする方法は、税務上の評価のルールが見直されているため、慎重に検討する
なお、社長が在任中に亡くなった場合は、会社が受け取った死亡保険金を原資に、遺族へ死亡退職金や弔慰金を支払うこともできます。保険には、こうした万が一への備えとしての役割もあります。
支給する年の「出口」の合わせ方
役員退職金を支給する年は、会社に大きな損金が出て、赤字になることも少なくありません。そこで、その年に次のような益金を合わせることで、税負担を平準化するのが一般的な考え方です。
- 生命保険の解約返戻金
- 経営セーフティ共済の解約手当金
- 不要になった資産の売却益 など
それでも赤字が残った場合、中小法人の青色申告であれば、赤字(欠損金)は翌期以降10年間繰り越して、将来の利益と相殺できます。社長が退職した後も会社を存続させる場合(後継者に引き継ぐ場合など)は、こうした繰越しも計画に入れておきましょう。
社長個人の受け取り時期にも注意
社長個人が、会社の退職金のほかに、小規模企業共済やiDeCoの一時金も受け取る場合は、受け取る順番や間隔によって、退職所得控除が調整されて税金が増えることがあります。このルールは改正で見直されることもあるため、受け取りの時期が近づいたら、最新のルールで確認しましょう。
今から始める準備のスケジュール
| 時期 | やること |
|---|---|
| 今すぐ | 役員退職金規程を作り、株主総会で承認する。退職の時期と金額の目安を試算する |
| 退職の10年以上前〜 | 資金準備の方法を決める(内部留保、保険、共済など)。保険は解約返戻率のピークと退職時期を合わせる |
| 退職の数年前〜 | 役員報酬の水準を確認する(急な増額は避ける)。後継者や会社の今後を決める |
| 退職の年 | 株主総会で退職金を決議し、議事録を作成。保険・共済の解約時期を合わせる。源泉徴収をして支給する |
退職金の資金計画を立てるなら
役員退職金を計画的に準備するには、毎年の利益と、会社に残るお金を正確に把握しておくことが大切です。会計ソフトで帳簿を整えておけば、保険料の資産計上や共済の掛金の管理、利益の見込みの確認もしやすくなります。
代表的なサービスとして「マネーフォワード クラウド」と「freee会計」があります。無料で試せるプランが用意されていることも多いので、実際の画面を触って使いやすいほうを選ぶのがおすすめです。
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まとめ
- 役員退職金は、適正な金額なら会社の損金になり、社長個人は退職所得として税負担が軽い
- 金額の目安は最終報酬月額 × 在任年数 × 功績倍率。代表取締役で3.0倍程度が実務上の目安とされることが多い(法律で決まった数字ではない)
- 退職直前の報酬の急な増額は否認のおそれ。報酬の水準は長期的に考える
- 役員退職金規程を早めに作り、退職時は株主総会で決議して議事録を残す。損金は原則として決議の年度(支払った年度に損金経理することも可)
- 分掌変更による退職金は、実質的に経営から退いていることが必要
- 資金準備は、内部留保・生命保険・経営セーフティ共済などを組み合わせる。保険は課税の繰延べであり、解約の時期を退職金の支給年に合わせる
- 税法や保険の取扱いは改正されることがあるため、最新の情報を確認し、税理士に相談する
役員退職金は、社長自身へのいちばん大きな「ごほうび」であり、同時に会社の財務にとっても大きなイベントです。金額の考え方と資金の準備を、退職のずっと前から少しずつ進めておきましょう。判断に迷う場合は、税理士に相談しましょう。
※本記事は2026年11月時点の税法の情報をもとに作成しています。税法や保険の税務上の取扱いは改正されることがあるため、実際に手続きをする際は国税庁などの最新情報を確認し、個別の判断については税理士等の専門家にご確認ください。また、本記事は特定の保険商品への加入をおすすめするものではありません。


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