iDeCo・小規模企業共済・国民年金基金の比較|個人事業主の老後資金と節税をどう組み合わせるか
「iDeCoも小規模企業共済も国民年金基金も、節税になるのは知っている。でも、全部に入るほどの余裕はない」「どれから始めればいいの?」——会社員と違って退職金も厚生年金もない個人事業主にとって、老後資金づくりと節税をどう組み合わせるかは大きなテーマです。
3つの制度は、どれも掛金の全額が所得控除になる点は同じですが、お金を引き出せる時期、受け取り方、途中でやめられるかどうかが大きく違います。この記事では、3つの制度の違いを比較したうえで、予算が限られている場合の優先順位の付け方を解説します。
なお、これらの制度は、掛金の上限や加入できる年齢などの改正が続いています。本記事は執筆時点の情報をもとにしていますので、実際に加入・変更する際は、各制度の公式サイトや国税庁などの最新情報を確認するようにしてください。
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3つの制度の比較表
| iDeCo (個人型確定拠出年金) |
小規模企業共済 | 国民年金基金 | |
|---|---|---|---|
| どんな制度? | 自分で運用する私的年金 | 個人事業主・経営者の退職金制度 | 国民年金に上乗せする公的な年金 |
| 掛金(月額) | 5,000円〜 上限は国民年金基金などと合算で月6.8万円(2026年12月分から7.5万円) |
1,000円〜7万円 (500円単位) |
年齢・性別・口数で決まる 上限はiDeCoと合算 |
| 掛金の控除 | 全額所得控除 (小規模企業共済等掛金控除) |
全額所得控除 (小規模企業共済等掛金控除) |
全額所得控除 (社会保険料控除) |
| 運用 | 自分で選ぶ(投資信託・定期預金など)。運用益は非課税 | 中小機構が運用。受け取る額は掛金と納付期間で決まる | 基金が運用。受け取る年金額は加入時に決まる |
| 受け取れる時期 | 原則60歳以降 | 廃業・退職時、65歳以上で一定の場合など | 原則65歳から(終身年金が基本) |
| 途中で引き出せる? | 原則できない | 任意解約できる(加入期間が短いと元本割れ)。掛金の範囲内で貸付も受けられる | できない(任意脱退は不可) |
| 掛金の変更 | 年1回変更できる。停止もできる | 増額・減額できる | 口数の増減ができる(減らすことは可能) |
| 受け取り時の税金 | 一時金は退職所得、年金は雑所得(公的年金等) | 廃業時などの一括受取は退職所得、分割は雑所得(公的年金等)。任意解約は一時所得 | 年金として受け取り雑所得(公的年金等) |
| 主な強み | 運用益が非課税。運用次第で増やせる | 柔軟性が高い。廃業時にまとまったお金を受け取れる | 一生涯年金を受け取れる(長生きへの備え) |
| 主な弱み | 60歳まで引き出せない。元本割れの可能性。口座管理手数料がかかる | 加入20年未満の任意解約は元本割れ | 途中でやめられない。インフレに弱い |
※掛金の上限、加入できる年齢、受取の条件などは改正されることがあります。最新の情報は各制度の公式サイトでご確認ください。
iDeCoと国民年金基金は「合わせて」上限がある
個人事業主(国民年金の第1号被保険者)の場合、iDeCoの掛金と、国民年金基金の掛金(または国民年金の付加保険料)は、合計で上限が決まっています。上限は月6.8万円ですが、制度改正により、2026年12月分の掛金から月7.5万円に引き上げられる予定です。あわせて、iDeCoに加入できる年齢も、一定の条件のもとで70歳未満まで広がります。
一方、小規模企業共済は別枠なので、iDeCo・国民年金基金とは関係なく、月7万円まで掛けられます。
節税効果はどれくらい?
3つの制度は、いずれも掛金の全額が所得から差し引かれるので、同じ金額を掛ければ、節税効果はほぼ同じです。節税額の目安は、次のように計算できます。
節税額の目安 = 年間の掛金 ×(所得税の税率 + 住民税の税率10%)
| 課税所得 | 所得税の税率 | 年36万円(月3万円)掛けた場合の節税額の目安 |
|---|---|---|
| 195万円以下 | 5% | 約54,000円 |
| 195万円超〜330万円以下 | 10% | 約72,000円 |
| 330万円超〜695万円以下 | 20% | 約108,000円 |
| 695万円超〜900万円以下 | 23% | 約118,800円 |
※復興特別所得税は考慮していません。また、国民健康保険料は、所得控除の影響を受けない計算方法の自治体が多いため、上の表には含めていません。
つまり、どの制度を選ぶかで節税額はほとんど変わりません。選ぶときに大事なのは、節税額ではなく、「いつ、どんな形でお金を使えるか」です。
それぞれの制度の特徴
小規模企業共済:柔軟に使える「自分のための退職金」
小規模企業共済は、中小機構(独立行政法人中小企業基盤整備機構)が運営する、個人事業主や小規模な会社の経営者のための退職金制度です。
- 掛金を増減しやすい:売上が落ちた年は減額し、余裕がある年は増額する、といった調整ができる
- 前納もできる:1年以内に到来する掛金を前納した場合は、支払った年の所得控除の対象になるため、年末の駆け込みの節税にも使える
- 貸付制度がある:払い込んだ掛金の範囲内で、事業資金などの貸付を受けられる
- 廃業したときに受け取れる:個人事業を廃業したときは、共済金を受け取れる。一括で受け取る場合は退職所得として扱われ、税負担が軽くなる
注意点は、加入期間が20年未満で任意解約すると元本割れすること、そして12か月未満で解約すると掛金が戻らないことです。「いつでも解約できる貯金」ではなく、事業をやめるときまで続ける前提で考えましょう。
iDeCo:運用で増やせる、ただし60歳までロック
iDeCoは、自分で掛金を払い、自分で選んだ商品で運用する私的年金です。
- 運用益が非課税:投資信託などで運用した利益に税金がかからない。長く続けるほど効果が大きくなる
- 運用次第で増える:その代わり、投資信託で運用すると、元本割れの可能性もある(定期預金などの元本確保型も選べる)
- 60歳まで引き出せない:急にお金が必要になっても、原則として途中で引き出すことはできない
- 手数料がかかる:加入時や毎月の口座管理手数料がかかる。金融機関によって手数料や商品が異なる
個人事業主にとって最大の注意点は、「60歳まで引き出せない」ことです。事業の資金繰りが厳しくなっても使えないお金なので、無理のない金額に抑えることが大切です。
国民年金基金:一生涯受け取れる「上乗せの公的年金」
国民年金基金は、会社員の厚生年金にあたる部分を補うための、個人事業主向けの公的な年金制度です。
- 終身年金が基本:1口目は必ず終身年金になるため、何歳まで生きても年金を受け取れる。長生きへの備えとしての安心感が大きい
- 受け取る年金額が加入時に決まる:運用の結果によって年金額が変わらないため、計画を立てやすい
- 途中でやめられない:一度加入すると、自分の都合で脱退することはできない(口数を減らすことはできる)
- インフレに弱い:年金額があらかじめ決まっているため、物価が上がると実質的な価値が目減りする
なお、国民年金基金に加入すると、国民年金の付加年金(付加保険料月400円)には加入できなくなります。
少ない予算なら「付加年金」も選択肢
国民年金の第1号被保険者は、通常の国民年金保険料に月400円を上乗せして納めると、将来の老齢基礎年金に「200円 × 付加保険料を納めた月数」の年金が加算されます。2年ほど年金を受け取れば、納めた付加保険料の元が取れる計算になり、少ない負担で始められる老後資金の上乗せです。付加保険料も社会保険料控除の対象になり、iDeCoとの併用もできます(iDeCoとの合算の上限の範囲内)。
予算が限られている場合の優先順位
「全部は入れない」場合は、次の順番で考えるのがおすすめです。
ステップ0:まずは手元資金を確保する
3つの制度は、どれもすぐには使えないお金です。個人事業主は収入が安定しないこともあるため、まずは生活費と事業の運転資金の数か月分を、すぐに使える預金として確保しておきましょう。節税のために掛金を増やしすぎて、手元のお金が足りなくなっては本末転倒です。
ステップ1:小規模企業共済から始める
個人事業主が最初に検討したいのは、小規模企業共済です。
- 掛金の増減がしやすく、事業の状況に合わせて調整できる
- いざというときは貸付を受けられる
- 廃業したときに退職金として受け取れる(60歳を待たなくてよい)
- iDeCo・国民年金基金とは別枠なので、後から他の制度を足しやすい
ステップ2:余裕があればiDeCoを追加する
手元資金に余裕があり、60歳まで使わないお金があるなら、iDeCoを追加します。運用益が非課税になるため、年齢が若く、運用できる期間が長い人ほどメリットが大きくなります。まずは月5,000円〜1万円程度から始めて、慣れてきたら増やすのもよい方法です。
ステップ3:長生きへの備えを厚くしたいなら国民年金基金
「運用は不安」「一生涯の年金を確保しておきたい」という人は、国民年金基金を検討します。ただし、途中でやめられないため、将来にわたって払い続けられる金額にとどめましょう。iDeCoとの合算の上限があるため、iDeCoと国民年金基金をどう配分するかを考えることになります。少額で始めたい場合は、まず付加年金を利用する方法もあります。
予算別の組み合わせ例
| 毎月の予算 | 組み合わせの例 | 考え方 |
|---|---|---|
| 月1万円 | 小規模企業共済 1万円 (+付加年金 400円) |
まずは柔軟に使える制度で。付加年金は少額で効果が大きい |
| 月3万円 | 小規模企業共済 2万円 iDeCo 1万円 |
退職金と運用をバランスよく |
| 月7万円 | 小規模企業共済 3〜4万円 iDeCo 2〜3万円 (または国民年金基金 1口) |
運用が苦手なら国民年金基金で終身年金を確保 |
| 月10万円以上 | 小規模企業共済 7万円 iDeCo・国民年金基金を上限の範囲内で |
所得が高い人ほど節税効果が大きい |
※あくまで一般的な考え方の例です。年齢、所得、家族構成、事業の見通しによって、適した組み合わせは変わります。
選ぶときに気をつけたいこと
- 受け取り時の税金も考える:小規模企業共済やiDeCoを一時金で受け取る場合は、どちらも退職所得になります。受け取る時期が近いと、退職所得控除の計算で調整が入ることがあるため、受け取りの順番や時期は、近くなったら改めて確認しましょう。
- 法人化の予定も考える:個人事業から法人にした場合、小規模企業共済は条件を満たせば引き継げます。iDeCoは、加入区分の変更の手続きが必要です。
- 倒産防止共済とは別物:名前が似ている「経営セーフティ共済(倒産防止共済)」は、掛金が事業の経費になる、取引先の倒産に備える制度です。老後資金づくりの制度ではないので、区別して考えましょう。
- 控除の申告を忘れない:個人事業主は、確定申告で掛金の控除を申告します。各制度から届く掛金の払込証明書を保管しておきましょう。
年末にできる節税対策の全体像は、「個人事業主の節税、年末までにできる駆け込み対策まとめ」で解説しています。また、廃業するときの小規模企業共済の受け取りなどについては、「個人事業を廃業・休業するときの手続きまとめ」もあわせてご覧ください。
確定申告と掛金の管理をラクにするなら
小規模企業共済やiDeCo、国民年金基金の掛金は、確定申告で所得控除として申告します。会計ソフトを使えば、日々の帳簿付けから、各種控除の入力、確定申告書の作成、e-Taxでの提出までまとめて行えます。
代表的なサービスとして「マネーフォワード クラウド」と「freee会計」があります。無料で試せるプランが用意されていることも多いので、実際の画面を触って使いやすいほうを選ぶのがおすすめです。
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まとめ
- iDeCo・小規模企業共済・国民年金基金は、どれも掛金の全額が所得控除。同じ金額なら節税効果はほぼ同じ
- 違いは引き出せる時期と受け取り方。iDeCoは60歳まで引き出せず、国民年金基金は途中でやめられない
- iDeCoと国民年金基金(付加年金)は合算で上限あり(月6.8万円、2026年12月分から7.5万円)。小規模企業共済は別枠で月7万円まで
- 優先順位は、①手元資金の確保 → ②小規模企業共済 → ③iDeCo → ④国民年金基金が基本の考え方
- 運用益の非課税を活かすならiDeCo、一生涯の年金を確保したいなら国民年金基金、少額なら付加年金も有力
- 制度は改正が続いているため、加入・変更の際は最新の情報を確認する
老後資金の準備は、一度に完璧を目指すより、無理のない金額で早く始めて、事業の成長に合わせて増やしていくのが長続きのコツです。判断に迷う場合は、税理士やファイナンシャルプランナーに相談しましょう。
※本記事は2026年11月時点の税法・制度の情報をもとに作成しています。iDeCo・小規模企業共済・国民年金基金の制度や税法のルールは改正されることがあるため、実際に加入・変更する際は各制度の公式サイトや国税庁などの最新情報を確認し、個別の判断については税理士やファイナンシャルプランナー等の専門家にご確認ください。また、本記事は特定の金融商品への加入や投資をおすすめするものではありません。


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