75歳以上の医療保険料に金融所得が反映へ|2029年8月からの後期高齢者医療制度の改正と、NISA口座・特定口座で変わる負担
「株の配当は特定口座の源泉徴収ありで受け取っているから、税金の手続きは何もしなくていい」——75歳以上の方やそのご家族の間で、これまで当たり前だったこの考え方が、変わろうとしています。
2026年に成立した改正法により、75歳以上の方が加入する後期高齢者医療制度で、特定口座などで得た株式の配当や売却益などの「金融所得」を、保険料や窓口負担の割合の判定に反映する仕組みが導入されることになりました。厚生労働省が示した方針では、2029年8月から反映が始まる予定です。
一方で、NISA口座で得た配当や売却益、預貯金の利子は対象外とされています。同じ配当を受け取っていても、どの口座で運用しているかによって、医療の保険料や窓口負担が変わる可能性があるのです。
この記事では、新聞報道や厚生労働省の公表資料などをもとに、改正の内容とスケジュール、どれくらい負担が変わるのか、そして今から確認しておきたいことをわかりやすく解説します。
なお、この制度は、具体的な施行日や計算方法が今後の政令・省令などで決まっていく段階です。本記事は2026年11月時点の報道・公表資料をもとにしていますので、実際の判断にあたっては、厚生労働省やお住まいの都道府県の後期高齢者医療広域連合の最新情報を確認するようにしてください。
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何が変わるのか
これまで:申告しなければ反映されなかった
後期高齢者医療制度の保険料や、医療機関の窓口で支払う自己負担の割合(1割・2割・3割)は、前年の所得をもとに決まります。この所得は、住民税の情報などから把握されています。
ところが、特定口座(源泉徴収あり)で得た株式の売却益や、上場株式の配当などは、税金が源泉徴収で完結するため、確定申告をしない(申告不要を選ぶ)ことができます。申告しなければ住民税の情報に表れないため、保険料や負担割合の計算にも反映されていませんでした。
その結果、同じくらいの金融所得がある人でも、確定申告をしたかどうかで保険料や負担割合が変わるという不公平が、長年の課題とされてきました。
これから:法定調書の情報で把握される
証券会社などの金融機関は、顧客ごとの配当や売却益などを記載した法定調書(特定口座年間取引報告書など)を、税務署に提出しています。改正後は、この法定調書の情報を、後期高齢者医療の保険者(広域連合)でも使えるようにし、マイナンバーで本人の所得とひもづけて、保険料や負担割合の計算に反映します。
本人が新たに申告をする必要はなく、確定申告をしたかどうかにかかわらず、金融所得が把握されるようになるのがポイントです。
対象になる所得・ならない所得
| 反映の対象になる主な所得 | 対象外とされている主な所得など |
|---|---|
| ・特定口座(源泉徴収あり・なし)での上場株式などの売却益 ・上場株式の配当、投資信託の分配金(申告不要を選んだものを含む) ・特定公社債などの利子 |
・NISA口座での配当・分配金・売却益(非課税のため) ・預貯金の利子 ・預貯金や株式などの資産の残高そのもの ・遺族年金・障害年金などの非課税の所得 |
注意したいのは、NISA口座で株式を持っていても、配当の受け取り方によっては非課税にならないことです。NISA口座の上場株式の配当を非課税で受け取るには、証券会社の口座で配当を受け取る「株式数比例配分方式」を選んでおく必要があります。郵便局などで受け取る方式などを選んでいると、配当に税金がかかり、今回の反映の対象になる可能性があります。
また、売却損が出た場合の扱い(損失との相殺など)の詳細は、今後の政省令などで示される予定です。
いつから始まる?スケジュール
| 時期 | 内容(報道・公表資料による方針) |
|---|---|
| 2026年5月〜6月 | 改正法が成立・公布 |
| 2026年10月 | 厚生労働省が実施のスケジュール案を示す |
| 2029年1月〜 | 金融機関による法定調書のオンライン提出などが本格化 |
| 2029年8月〜 | 保険料・窓口負担の判定への反映を開始(2028年中の所得が対象。一部の法定調書の分から) |
| 2030年8月〜 | 対象となる法定調書の分が全面的に反映される予定(2029年中の所得) |
保険料や負担割合は前年の所得で判定されるため、実際には2028年の取引から影響が出ることになります。正式な施行日は政令で定められる予定です。
どれくらい負担が変わる?
朝日新聞(2026年11月1日付)が紹介したMUFG資産形成研究所の試算では、75歳以上の単身世帯で、公的年金が年180万円、配当・分配金が年120万円というケースについて、金融所得の反映が始まった後の負担が比較されています。
| 特定口座で運用 | NISA口座で運用 | |
|---|---|---|
| 年金収入 | 180万円 | 180万円 |
| 保険料の計算に反映される金融所得 | 120万円 | 0円 |
| 保険料(年額)の試算 | 約21.1万円 | 約5.7万円 |
| 窓口負担の割合 | 2割になる可能性 | 1割 |
※全国平均の保険料率などにもとづく試算で、実際の保険料は都道府県によって異なります。年金収入から公的年金等控除や基礎控除を差し引いた金額などをもとに計算されています。
同じ配当額でも、特定口座で受け取るか、NISA口座で受け取るかで、保険料に4倍近い差が生じうるという結果です。さらに、窓口負担が1割から2割になれば、病院や薬局で支払う金額も増えます。
窓口負担の割合の区分
75歳以上の方の窓口負担は、所得に応じて次の3つに分かれます。金融所得が加わることで、区分が上がる人が出てくると考えられます。
| 区分 | 窓口負担 | 目安 |
|---|---|---|
| 一般所得者など | 1割 | 75歳以上の多くの人がこの区分 |
| 一定以上の所得のある人 | 2割 | 課税所得や、年金とその他の所得の合計額が一定以上 |
| 現役並みの所得のある人 | 3割 | 課税所得が一定以上(収入額によっては申請で2割などになる場合もある) |
※区分の判定基準は改正されることがあります。最新の基準は厚生労働省や広域連合の案内で確認してください。
今から確認しておきたいこと
75歳以上の方・まもなく75歳になる方
- 自分の口座の種類を確認する:特定口座(源泉徴収あり・なし)、一般口座、NISA口座のどれで、どの資産を持っているか
- 年間の配当・売却益を把握する:特定口座年間取引報告書で、1年間の配当や売却益の金額を確認する
- NISA口座の配当の受け取り方を確認する:「株式数比例配分方式」になっているか
- 売却のタイミングを考える:大きな売却益が出る年は、翌年の保険料や負担割合が上がる可能性がある。2028年以降の取引は特に意識しておく
- NISAの活用を検討する:今後の運用はNISA口座を使うことで、金融所得として反映されにくくなる。ただし、年齢や投資の目的に合っているかは慎重に判断する
「源泉徴収ありの特定口座だから、税金の手続きは何もしなくていい」という考え方は変わりませんが、「だから医療の保険料には影響しない」とは言えなくなる点に注意が必要です。
現役世代の方
現時点で対象となるのは、後期高齢者医療制度(原則75歳以上)だけです。ただし、国会の審議などでは、国民健康保険や介護保険など、ほかの制度にも同じ仕組みを広げるべきではないかという議論もあります。健康保険と税、資産運用の関係は、今後ますます切り離せなくなっていくと考えられます。
親の資産運用について相談を受けている方は、親の口座の種類や配当の受け取り方を一緒に確認しておくとよいでしょう。老後資金の準備については「iDeCo・小規模企業共済・国民年金基金の比較」もあわせてご覧ください。
なぜ金融所得を反映するのか
後期高齢者医療制度の財源は、医療機関の窓口での自己負担を除くと、75歳以上の方が支払う保険料が約1割、公費が約5割、現役世代が負担する支援金が約4割といわれています。高齢化で医療費が増えるなか、現役世代の負担を抑えながら、支払い能力のある高齢者に応分の負担を求めることが課題とされてきました。
確定申告をするかどうかで保険料が変わる不公平を解消し、実際の所得に応じた負担にすることが、今回の改正の大きな目的です。一方で、NISAのように税制で優遇された資産形成を後押しする仕組みとの関係や、金融資産を持つ高齢者の負担のあり方については、今後も議論が続くと考えられます。
資産と税金の記録を整理するなら
個人事業主やフリーランスの方は、事業の帳簿と確定申告をきちんと管理しておくことで、税金だけでなく、社会保険料や医療の負担がどう決まるのかも把握しやすくなります。会計ソフトを使えば、日々の帳簿付けから確定申告書の作成までまとめて行えます。
代表的なサービスとして「マネーフォワード クラウド」と「freee会計」があります。無料で試せるプランが用意されていることも多いので、実際の画面を触って使いやすいほうを選ぶのがおすすめです。
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まとめ
- 後期高齢者医療制度(原則75歳以上)で、特定口座などの金融所得を保険料・窓口負担の判定に反映する仕組みが導入される
- 金融機関の法定調書の情報をマイナンバーでひもづけて把握するため、確定申告をしたかどうかに関係なく反映される
- 厚生労働省の方針では2029年8月から反映開始(2028年中の所得が対象)、2030年8月から全面的に反映される予定
- NISA口座の配当・売却益や、預貯金の利子は対象外。NISAの配当は「株式数比例配分方式」で受け取っているか確認
- 試算では、同じ配当でも特定口座とNISA口座で保険料に大きな差が出て、窓口負担が1割から2割になる可能性も
- ほかの医療保険や介護保険への拡大も議論されている。詳細は今後の政省令などで決まるため、最新の情報を確認する
資産運用では、税金だけでなく、社会保険料や医療の自己負担まで含めて考える時代になりつつあります。ご自身やご家族の口座を一度見直して、2028年以降に向けた準備を始めておきましょう。判断に迷う場合は、お住まいの広域連合の窓口や、税理士・ファイナンシャルプランナーに相談しましょう。
※本記事は2026年11月時点の報道や厚生労働省の公表資料などをもとに作成しています。制度の具体的な施行日、対象となる所得、計算方法、負担割合の基準などは今後の政令・省令や各広域連合の運用で変わる可能性があるため、最新の情報を確認し、個別の判断については専門家にご確認ください。また、本記事は特定の金融商品の購入や売却をおすすめするものではありません。

