個人事業を廃業・休業するときの手続きまとめ|廃業届の期限、在庫や事業用資産の扱い、最後の確定申告
「長年続けてきた店をたたむことになった。税務署には何を出せばいいの?」「残った在庫や、お店で使っていた設備はどうなる?」「廃業した年の確定申告は、いつもと何が違うの?」——個人事業を廃業するときは、開業のとき以上に、届出や申告で確認することがたくさんあります。
廃業というと、「うまくいかなかった」「やめてしまう」と、どこか後ろめたく感じる方もいるかもしれません。でも、廃業は失敗の証ではなく、ひとつの事業をきちんと終えて、次のステージへ進むための区切りです。会社員として新しい仕事に就く、別の事業を始める、家族との時間を大切にする、法人として事業を続ける——理由は人それぞれですが、どれも前に進むための選択です。手続きをきちんと済ませておくことは、これからの自分が身軽にスタートを切るための準備でもあります。
この記事では、個人事業を廃業・休業するときに必要な届出の種類と期限、在庫や事業用資産の扱い、最後の確定申告のポイントを、ひとつずつ整理して解説します。
なお、税法や届出のルールは改正されることがあります。本記事は執筆時点の情報をもとにしていますので、実際に手続きをする際は、国税庁や都道府県・市区町村などの最新情報を確認するようにしてください。
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廃業するときに必要な届出一覧
個人事業を廃業するときに必要な主な届出は、次のとおりです。自分に関係するものを確認しましょう。
| 届出 | 提出先 | 期限 | 提出が必要な人 |
|---|---|---|---|
| 個人事業の開業・廃業等届出書 | 税務署 | 廃業日から1か月以内 | すべての人 |
| 所得税の青色申告の取りやめ届出書 | 税務署 | 取りやめる年の翌年3月15日まで | 青色申告をしている人 |
| 事業廃止届出書(消費税) | 税務署 | 速やかに | 消費税の課税事業者・インボイス登録をしている人 |
| 給与支払事務所等の廃止届出書 | 税務署 | 廃止日から1か月以内 | 従業員などに給与を支払っていた人 |
| 事業廃止の届出(個人事業税) | 都道府県税事務所 | 都道府県によって異なる | 個人事業税の対象となる事業をしていた人 |
| 雇用保険・労働保険・社会保険の廃止の手続き | ハローワーク・労働基準監督署・年金事務所 | 手続きごとに異なる(数日〜50日程度) | 従業員を雇っていた人 |
税務署への届出は、e-Taxでも提出できます。複数の届出を同じ税務署に出す場合は、まとめて提出すると漏れを防げます。
個人事業の開業・廃業等届出書
開業のときに出した届出書と同じ様式で、「廃業」の欄にチェックを入れて提出します。廃業日から1か月以内が期限です。廃業の理由や、廃業後の事業の引継ぎ先(いる場合)などを記入します。
青色申告の取りやめ届出書
青色申告の承認を受けている人は、「所得税の青色申告の取りやめ届出書」を、取りやめようとする年の翌年3月15日までに提出します。廃業届と同じタイミングで出しておくと安心です。
なお、廃業した年の分は、青色申告で確定申告ができます。帳簿をきちんと付けていれば、廃業した年も青色申告特別控除などの特典を受けられます。
消費税の事業廃止届出書とインボイス登録
消費税の課税事業者は、「事業廃止届出書」を速やかに提出します。インボイス(適格請求書発行事業者)の登録をしている人は、事業廃止届出書を提出すると、事業を廃止した日の翌日に登録の効力が失われるとされています。廃業後も登録が残ったままにならないよう、忘れずに提出しましょう。
従業員を雇っていた場合
従業員を雇っていた場合は、税務署への給与支払事務所等の廃止届出書のほか、雇用保険の適用事業所廃止届(ハローワーク)、労働保険の確定保険料の申告(労働基準監督署など)、健康保険・厚生年金保険の適用事業所全喪届(年金事務所)などの手続きが必要です。期限が短いものもあるので、早めに確認しましょう。
また、源泉徴収した所得税は、廃業する月の分も含めて、期限までに納付します。納期の特例を受けていた場合も、廃業したときは早めに納付が必要になることがあります。
在庫(棚卸資産)の扱い
お店をたたむときに悩むのが、残った在庫の扱いです。在庫をどう処分するかによって、処理が変わります。
| 在庫の処分方法 | 処理 |
|---|---|
| 廃業前に売り切る(閉店セールなど) | 通常の売上として、事業所得の収入に計上する |
| 廃業前に廃棄する | 廃棄した在庫の原価は、事業所得の経費(売上原価や廃棄損)になる。廃棄の記録(写真、処分業者の証明など)を残す |
| 自分や家族が使う(家事消費) | 使った時の価額を、事業所得の収入として計上する |
| 知人などに無償であげる(贈与) | あげた時の価額を、事業所得の収入として計上する |
| 廃業後に売却する | 売却の状況によって、事業所得(残務整理の一環)または雑所得として扱われることがある |
家事消費・贈与は「売ったもの」として計上する
在庫を自分で使ったり、人にあげたりした場合は、お金を受け取っていなくても、その在庫を売ったものとして収入に計上します(所得税法39条・40条)。計上する金額は、原則として通常の販売価額です。ただし、取得価額以上で、かつ通常の販売価額のおおむね70%以上の金額で計上していれば、認められる取扱いもあります。
「どうせ廃業するから」と、在庫を自宅に持ち帰ったまま何も計上しないのは、計上漏れになるので注意しましょう。
廃業日の棚卸を忘れずに
廃業した年の確定申告では、廃業日時点の在庫を棚卸して、売上原価を計算します。売れ残りの在庫がある場合は、その扱い(家事消費、廃棄、廃業後の売却など)を決めて、記録に残しておきましょう。
消費税の課税事業者は注意
消費税の課税事業者が、在庫を家事消費した(自分や家族で使った)場合は、消費税でも売上があったものとして扱われる(みなし譲渡)ことがあります。消費税の申告でも忘れずに計上しましょう。
事業用資産(設備・車など)の扱い
お店の設備、パソコン、車などの事業用の固定資産は、廃業後にどうするかによって処理が変わります。
| 処分方法 | 処理 |
|---|---|
| 廃業後も自分で使う(車やパソコンなど) | 特別な処理は不要。減価償却は廃業日までで終わり、以後は私用の資産になる |
| 廃業前に廃棄する | 未償却の残高(帳簿価額)を固定資産除却損として、事業所得の経費にする |
| 売却する | 事業所得ではなく譲渡所得として申告する(帳簿価額が取得費になる) |
減価償却は廃業した月まで
廃業した年の減価償却費は、1月から廃業した月までの月数分を計上します。たとえば10月に廃業した場合は、1年分の10/12を計上します。少額減価償却資産の特例などで、すでに全額を経費にしている資産は、追加の処理は不要です。
事業用資産の売却は譲渡所得
お店の設備や車を売った場合の利益は、事業所得ではなく譲渡所得になります。保有期間が5年以内なら短期、5年を超えるなら長期の譲渡所得となり、年50万円の特別控除があります。土地や建物を売った場合は、他の所得と分けて計算する分離課税になります。
廃業した年の最後の確定申告
廃業した年の確定申告は、通常どおり翌年の2月16日〜3月15日に行います。廃業したからといって、すぐに申告が必要になるわけではありません(年の途中で亡くなった場合の準確定申告は別です)。
最後の確定申告のポイント
- 収入は廃業日まで:1月1日から廃業日までの売上を、事業所得として申告する。廃業日までに請求した売上で、まだ入金されていないもの(売掛金)も含める
- 経費も廃業日まで:廃業日までに発生した経費を計上する。廃業のために支払った費用(設備の撤去費、原状回復費、在庫の処分費用など)も経費になる
- 減価償却は月割り:廃業した月までの分を計上する
- 在庫の扱いを反映する:家事消費・贈与した在庫は収入に、廃棄した在庫は経費に
- 廃業後の収入は区分に注意:廃業後の在庫の売却や、事業用資産の売却は、事業所得とは別の所得になることがある
廃業した年の個人事業税は「見込み」で経費にできる
個人事業税は、通常は翌年に課税されて、納付した年の経費になります。しかし、廃業した場合は翌年に経費にする機会がありません。そのため、廃業した年分の事業税は、課税される見込額を、廃業した年の経費に計上できる取扱いがあります。都道府県への事業税の申告とあわせて、忘れずに経費に入れましょう。
廃業後に発生した費用・損失の特例
廃業した後に、廃業前の事業に関する費用や損失が発生することがあります。たとえば、廃業前の売掛金が回収できなくなった(貸倒れ)、商品の返品があった、といったケースです。
こうした費用や損失は、廃業した年(またはその前年)の経費として計上できる特例があります(所得税法63条)。すでに確定申告を済ませている場合は、その事実が発生した日の翌日から2か月以内に更正の請求をすることで、払いすぎた税金を取り戻せます。売掛金が回収できなくなった場合の考え方は、「売掛金が回収できなくなったときの貸倒損失」でも解説しています。
消費税の最後の申告
消費税の課税事業者は、廃業した年の分の消費税の確定申告も必要です。個人事業主の消費税の申告期限は、原則として翌年3月31日です。
なお、廃業した年の翌年以降も、不動産の賃貸収入など、事業所得以外の所得がある場合は、引き続き確定申告が必要になることがあります。
廃業と一緒に確認したいこと
- 予定納税:前年の所得税が一定額以上で予定納税の通知が届いている場合は、廃業で所得が減る見込みであれば、予定納税額の減額申請ができる(7月・11月の納付前に申請)
- 小規模企業共済:加入している場合、個人事業の廃業は共済金を受け取れる事由にあたる。一括で受け取る共済金は、原則として退職所得として扱われる
- 国民健康保険・国民年金:廃業後に会社員になる場合などは、加入する保険が変わるため、市区町村での手続きが必要になる
- 帳簿・書類の保存:廃業しても、帳簿や領収書などの保存義務はなくならない。青色申告の帳簿書類は原則7年間保存する
- 屋号の銀行口座や契約:事業用の口座、クレジットカード、各種サービスの契約なども、必要に応じて解約・変更する
休業する場合の手続き
「いったん事業を休むけれど、また再開するかもしれない」という場合は、休業という選択肢もあります。
- 税務署への休業の届出は、原則として不要:所得税には休業届という様式はなく、廃業届を出さなければ、事業を続けている扱いのままになる
- 青色申告の承認は続く:休業中も青色申告の承認は取り消されないため、再開したときにそのまま青色申告ができる。ただし、確定申告書の提出が期限後になることが2年続くと、承認が取り消されることがある
- 収入がなくても申告したほうがよい場合がある:休業中の経費で赤字が出た場合、青色申告なら赤字を翌年以降に繰り越せる(純損失の繰越控除)。そのためには確定申告が必要
- 都道府県・市区町村の手続き:個人事業税などの関係で、休業の届出を求めている自治体もあるので確認する
- 消費税の課税事業者・インボイス登録:休業中も登録は残るため、課税事業者のままであれば、売上がなくても申告が必要になる場合がある
再開の予定がはっきりしない場合は、廃業届を出して一度区切りをつけ、再開するときに改めて開業届を出す方法もあります。
最後の確定申告をラクにするなら
廃業した年の確定申告では、在庫の棚卸、減価償却の月割り計算、固定資産の除却、事業税の見込額など、普段より扱う項目が増えます。会計ソフトを使えば、帳簿の整理から確定申告書の作成、e-Taxでの提出までまとめて行えます。
代表的なサービスとして「マネーフォワード クラウド」と「freee会計」があります。無料で試せるプランが用意されていることも多いので、実際の画面を触って使いやすいほうを選ぶのがおすすめです。
マネーフォワード クラウド
会計・確定申告・請求書などのサービスをまとめて提供しており、複数の業務を一つのシリーズで管理したい方に向いています。
freee会計
簿記の知識が少なくても使いやすい画面づくりが特徴で、経理初心者や個人事業主・小規模な会社に向いているクラウド会計ソフトです。
※対応機能や料金プランは変更される場合があります。最新情報は公式サイトでご確認ください。
確定申告の書き方を本で確認したい方へ
最後の確定申告は、決算書の作り方や譲渡所得の書き方など、いつもと違う項目が出てきます。記入例を見ながら確認したい方は、確定申告の解説書を一冊手元に置いておくと安心です。
※書籍は税制改正にあわせて毎年改訂されます。購入の際は最新年度版かどうかをご確認ください。
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まとめ
- 廃業したら、個人事業の開業・廃業等届出書を廃業日から1か月以内に税務署へ提出する
- 青色申告の人は取りやめ届出書、消費税の課税事業者・インボイス登録者は事業廃止届出書、従業員がいた人は給与支払事務所等の廃止届出書なども必要
- 在庫は、家事消費・贈与なら収入に計上、廃棄なら経費に。廃業日の棚卸を忘れずに
- 事業用資産は、廃棄なら除却損、売却なら譲渡所得。減価償却は廃業した月まで
- 最後の確定申告は翌年2月16日〜3月15日。事業税の見込額も経費にできる
- 廃業後の貸倒れや返品は、廃業した年の経費にできる特例がある(更正の請求は2か月以内)
- 休業なら、税務署への届出は原則不要で、青色申告の承認も続く
- 税法や届出のルールは改正されることがあるため、手続きの時点で最新の情報を確認する
廃業の手続きは、「届出」「在庫と資産の整理」「最後の確定申告」の3つに分けて、ひとつずつ進めれば大丈夫です。判断に迷う場合は、税務署や税理士に相談しましょう。
事業を続けてきた経験は、廃業してもなくなるものではありません。お客さんと向き合ってきたこと、売上や経費を管理してきたこと、毎年の確定申告を乗り越えてきたこと——そのひとつひとつが、これからの仕事や暮らしに必ず生きてきます。最後の確定申告は、これまでの事業の「締めくくり」であると同時に、次の一歩への「スタートライン」です。きちんと区切りをつけて、晴れやかな気持ちで新しい道へ進んでいきましょう。
※本記事は2026年11月時点の税法・制度の情報をもとに作成しています。税法や届出のルールは改正されることがあるため、実際に手続きをする際は国税庁や都道府県・市区町村などの最新情報を確認し、個別の判断については税理士等の専門家にご確認ください。


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