一人社長の社会保険の実務|算定基礎届と月額変更届、役員報酬の額で保険料がどう変わるか

「毎年7月になると、年金事務所から算定基礎届の案内が届くので、なんとなく出している」「役員報酬を変えたら月額変更届が必要と聞いたけど、いつ出せばいいの?」——社長1人の会社でも、役員報酬を支払っていれば健康保険と厚生年金保険への加入が必要で、毎年の届出も欠かせません。

社会保険料は、役員報酬の額そのものではなく、「標準報酬月額」という等級で決まります。この仕組みと、算定基礎届・月額変更届の役割を理解しておくと、役員報酬をいくらにすると保険料がどう変わるのかが見えてきます。

この記事では、一人社長が知っておきたい社会保険の実務を、届出のタイミングと保険料の計算例を交えてわかりやすく解説します。

なお、保険料率や標準報酬月額の上限などは、毎年のように見直されています。本記事は執筆時点の情報をもとにしていますので、実際に手続きをする際は、日本年金機構や協会けんぽなどの最新情報を確認するようにしてください。

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社会保険料は「標準報酬月額」で決まる

健康保険料と厚生年金保険料は、毎月の役員報酬の額をそのまま使うのではなく、報酬を一定の幅で区切った「標準報酬月額」という等級にあてはめて計算します。

毎月の保険料 = 標準報酬月額 × 保険料率

保険 標準報酬月額の範囲 保険料率(2026年度の目安)
健康保険(協会けんぽ) 5万8千円〜139万円(50等級) 約9.9%(全国平均。都道府県によって異なる)
介護保険(40歳〜64歳) 健康保険と同じ 1.62%
子ども・子育て支援金 健康保険と同じ 0.23%(2026年4月分から)
厚生年金保険 8万8千円〜65万円(32等級) 18.3%

保険料は会社と本人で半分ずつ負担します。ただし、社長1人の会社では、会社負担分も本人負担分も、結局は同じ事業の利益から支払うお金です。役員報酬を決めるときは、両方を合計した金額で考えるのが現実的です。

また、標準報酬月額の対象になる「報酬」には、役員報酬のほか、通勤手当や、役員社宅などの現物給与も含まれます。役員社宅の仕組みについては「家賃を会社に払ってもらうと手取りが増える?ひとり社長の役員社宅のしくみと手順」で解説しています。

等級の「境目」に注意

標準報酬月額は一定の幅で区切られているため、報酬がわずかに違うだけで等級が変わることがあります。たとえば、健康保険・厚生年金保険では、次のように区切られています。

報酬月額 標準報酬月額
29万円以上〜31万円未満 30万円
31万円以上〜33万円未満 32万円

役員報酬が月30万9,000円なら標準報酬月額は30万円、月31万1,000円なら32万円です。報酬の差はわずか2,000円ですが、保険料の対象は2万円違うため、会社負担分と本人負担分の合計で月約5,700円、年約6万8,000円の差になります(40歳未満の場合)。役員報酬を決めるときは、等級表を見て、境目のすぐ上にならないかを確認しておくとよいでしょう。

役員報酬の額で保険料はどう変わる?

役員報酬の月額ごとに、社会保険料(会社負担分+本人負担分)がどれくらいになるかを試算してみます。

役員報酬(月額) 健康保険の
標準報酬月額
厚生年金の
標準報酬月額
保険料(月額)
会社+本人
保険料(年額)
会社+本人
うち本人負担
(年額)
30万円 30万円 30万円 約8.5万円 約102万円 約51万円
50万円 50万円 50万円 約14.2万円 約171万円 約85万円
70万円 71万円 65万円(上限) 約19.1万円 約229万円 約115万円
100万円 98万円 65万円(上限) 約21.8万円 約262万円 約131万円

※40歳未満(介護保険料なし)、健康保険料率9.9%(全国平均)、子ども・子育て支援金0.23%、厚生年金保険料率18.3%で計算した概算です。実際の保険料は、都道府県の料率や年齢によって異なります。

ここからわかるのは、役員報酬が月65万円を超えると、厚生年金保険料が頭打ちになるということです。報酬が月70万円から100万円に増えても、増えるのは健康保険料の分だけです。ただし、厚生年金の標準報酬月額の上限は、2027年9月から段階的に引き上げられる予定(68万円→71万円→75万円)なので、今後は上限の位置が変わります。

一方で、厚生年金保険料を多く払うほど、将来受け取る老齢厚生年金も増えます。社会保険料は「負担」だけでなく「将来への備え」でもある点も踏まえて、報酬額を考えましょう。

算定基礎届(定時決定)の仕組み

標準報酬月額は、一度決まったら終わりではなく、毎年1回見直されます。この見直しのための届出が算定基礎届です。

項目 内容
計算の対象 4月・5月・6月に支払った報酬の平均額
提出期限 原則として7月1日〜7月10日
提出先 年金事務所(または事務センター)。電子申請(e-Gov)でも提出できる
新しい標準報酬月額の適用 その年の9月分から翌年8月分まで

社長1人の会社でも、算定基礎届の提出は必要です。役員報酬を毎月同額で支払っている場合は、4〜6月の報酬も同じ金額になるため、記入自体はシンプルです。通勤手当がある場合は、その分も報酬に含めて記入します。

新しい標準報酬月額が決まると、年金事務所から「標準報酬決定通知書」が届きます。社会保険料は原則として翌月の給与から控除するため、9月分の保険料を差し引くのは10月に支払う役員報酬からになります。給与計算の設定を忘れずに変更しましょう。

月額変更届(随時改定)の仕組み

年の途中で報酬が大きく変わった場合は、次の算定基礎届を待たずに標準報酬月額を変更します。この届出が月額変更届です。

月額変更届が必要になる3つの条件

次の3つの条件をすべて満たした場合に、月額変更届を提出します。

  1. 固定的賃金が変動した:役員報酬の増額・減額など
  2. 変動した月から3か月間の報酬の平均で計算した標準報酬月額が、それまでの標準報酬月額と比べて2等級以上変わった
  3. 3か月とも、報酬の支払いの基礎となった日数が17日以上ある

条件を満たすと、変動した月から4か月目の保険料から新しい標準報酬月額が適用されます。届出は、条件を満たしたら速やかに提出します。

一人社長によくあるスケジュール(3月決算の例)

役員報酬は、税務上、原則として事業年度の開始から3か月以内に改定します(定期同額給与)。3月決算の会社が6月の定時株主総会で役員報酬を月50万円から月70万円に増額し、7月支給分から変更した場合を考えます。

時期 やること
4月〜6月 月50万円を支給(この3か月の報酬が算定基礎届の対象)
6月 定時株主総会で役員報酬を月70万円に増額する決議
7月1日〜10日 算定基礎届を提出。7月から報酬が変わり、月額変更届の対象になる見込みの場合は、その旨を記載する
7月〜9月 月70万円を支給(この3か月の平均で随時改定を判定)
9月末〜10月 2等級以上の変動なので月額変更届を提出
10月分〜 新しい標準報酬月額(健康保険71万円、厚生年金65万円)で保険料を計算。10月分の保険料は11月の報酬から控除

このように、7月〜9月に随時改定が行われる場合は、その年の算定基礎届による定時決定は行われません。役員報酬を見直す時期と、社会保険の届出のタイミングは、セットで管理しておきましょう。

反対に、報酬の変動が1等級分だけの場合は、月額変更届の対象にならず、翌年の算定基礎届で見直されるまで、それまでの標準報酬月額が続きます。

役員報酬の改定のルールについては、「役員報酬の決め方と『定期同額給与』のルール」で詳しく解説しています。

減額したときも月額変更届が必要

業績の悪化などで役員報酬を減額した場合も、2等級以上下がれば月額変更届が必要です。減額したのに届出をしないと、減額前の高い保険料を払い続けることになります。忘れずに提出しましょう。

役員賞与を支給したときの届出

役員に賞与を支給した場合は、支給日から5日以内に「賞与支払届」を提出します。賞与の社会保険料は、支給額の1,000円未満を切り捨てた「標準賞与額」に保険料率をかけて計算します。

  • 健康保険:標準賞与額の上限は年度の累計で573万円
  • 厚生年金保険:標準賞与額の上限は1回あたり150万円

役員賞与を会社の経費にするには、税務上、事前確定届出給与の届出が必要です。詳しくは「役員にボーナスを出す『事前確定届出給与』の届出と注意点」をご覧ください。

社会保険の届出カレンダー(一人社長向け)

時期 届出・手続き ポイント
毎月 社会保険料の納付(前月分を月末までに) 口座振替が一般的。保険料は翌月の報酬から控除する
3月〜4月 健康保険料率などの改定の確認 協会けんぽの料率は例年3月分から、子ども・子育て支援金は4月分から改定
役員報酬の改定後 月額変更届(2等級以上の変動時) 変動月から3か月の平均で判定し、4か月目から改定
7月1日〜10日 算定基礎届 4〜6月の報酬で9月からの標準報酬月額を決める
賞与の支給後 賞与支払届(5日以内) 事前確定届出給与とあわせて管理する
9月〜10月 標準報酬決定通知書の確認、給与計算の変更 9月分の保険料(10月控除分)から新しい等級で計算

報酬額を決めるときの考え方

  1. 税金と社会保険料を合計して考える:役員報酬を増やすと、法人税は減り、個人の所得税・住民税と社会保険料が増える。社会保険料は会社負担分も含めて計算する
  2. 等級の境目を確認する:境目のすぐ上の金額は避ける
  3. 厚生年金の上限を意識する:月65万円(2027年9月以降は段階的に引き上げ予定)を超える部分には厚生年金保険料がかからない
  4. 将来の年金・保障も考える:厚生年金保険料を抑えると、将来の年金も少なくなる。病気やけがのときの傷病手当金も、標準報酬月額をもとに計算される
  5. 届出のタイミングをセットで管理する:役員報酬の改定時期と、算定基礎届・月額変更届の時期を、年間のスケジュールに入れておく

役員報酬の額による手取りと税金の違いは「役員報酬は『いくら』が正解?年商1,000万円のひとり社長で手取りと税金をシミュレーション」、個人事業から法人化したときの社会保険料の負担については「法人成りは所得いくらから得になるか」もあわせてご覧ください。

給与計算と社会保険の管理をラクにするなら

一人社長の会社では、役員報酬の給与計算、社会保険料の控除、標準報酬月額の変更の反映などを、社長自身が行うことも多いでしょう。会計ソフトや給与計算ソフトを使えば、保険料率の改定や等級の変更を反映した給与計算から、帳簿への記帳までまとめて管理できます。

代表的なサービスとして「マネーフォワード クラウド」と「freee会計」があります。無料で試せるプランが用意されていることも多いので、実際の画面を触って使いやすいほうを選ぶのがおすすめです。

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会計・確定申告・請求書などのサービスをまとめて提供しており、複数の業務を一つのシリーズで管理したい方に向いています。

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まとめ

  • 社会保険料は、役員報酬そのものではなく標準報酬月額(等級)× 保険料率で決まる。会社負担分と本人負担分の合計で考える
  • 等級の境目のすぐ上の報酬は、わずかな差で保険料が上がるので注意
  • 厚生年金は月65万円が上限(2027年9月から段階的に引き上げ予定)。それを超える報酬には厚生年金保険料がかからない
  • 算定基礎届は毎年7月1日〜10日。4〜6月の報酬で、9月からの標準報酬月額が決まる
  • 役員報酬を改定して2等級以上変わったら月額変更届。変動月から4か月目に改定される。減額のときも忘れずに
  • 役員賞与は支給から5日以内に賞与支払届
  • 保険料率や上限は毎年のように見直されるため、最新の情報を確認する

毎年なんとなく出していた届出も、仕組みがわかれば、役員報酬を決めるときの大切な判断材料になります。報酬の改定と社会保険の届出をセットで管理して、納得できる報酬額を決めましょう。判断に迷う場合は、社会保険労務士や税理士に相談しましょう。

※本記事は2026年11月時点の制度の情報をもとに作成しています。保険料率、標準報酬月額の等級・上限、届出の期限などは見直されることがあるため、実際に手続きをする際は日本年金機構・協会けんぽなどの最新情報を確認し、個別の判断については社会保険労務士・税理士等の専門家にご確認ください。