生前贈与の選び直し|暦年贈与(年110万円)と相続時精算課税制度の違いと、持ち戻し期間が7年になった改正

「親から毎年110万円ずつもらえば、相続税の節税になると聞いた」「でも、ルールが変わって7年分は相続財産に戻されるって本当?」「相続時精算課税という制度もあるらしいけど、どちらを選べばいいの?」——生前贈与は、相続税対策の基本として知られていますが、2024年からルールが大きく変わりました。

この記事では、暦年贈与(年110万円の基礎控除)と相続時精算課税制度の違い、そして相続財産に持ち戻す期間が3年から7年に延びた改正の内容を整理し、どちらの制度が自分に合うかを考えるためのポイントをわかりやすく解説します。

なお、贈与税・相続税の制度は改正されることがあります。本記事は執筆時点の情報をもとにした一般的な説明ですので、実際に贈与を行う際は、国税庁の最新情報を確認し、税理士などの専門家に相談するようにしてください。

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2つの贈与の制度の違い

暦年課税(暦年贈与) 相続時精算課税
使える人 誰からの贈与でも(原則) 60歳以上の父母・祖父母から、18歳以上の子・孫への贈与
非課税の枠 受け取る人1人あたり年110万円(基礎控除) ①年110万円の基礎控除(2024年から)+ ②累計2,500万円の特別控除
枠を超えたときの贈与税 10%〜55%の累進税率 特別控除を超えた部分に一律20%
相続のときの扱い 相続開始前の一定期間(最長7年)の贈与は、相続財産に加算 年110万円の基礎控除を除いた贈与は、期間に関係なくすべて相続財産に加算(贈与したときの価額で)
手続き 年110万円以下なら申告不要 最初に選択届出書の提出が必要。年110万円以下なら申告不要
やめられる? ― 一度選ぶと、その贈与者からの贈与は暦年課税に戻せない

改正①:暦年贈与の持ち戻しが「3年」から「7年」へ

暦年贈与で受け取った財産は、贈与した人が亡くなったときに、相続開始前の一定期間内のものが相続財産に加算されます(持ち戻し)。この期間が、2024年1月1日以後の贈与から、3年から7年に延長されました。

段階的に延びていくスケジュール

贈与した人が亡くなった日(相続開始日) 相続財産に加算される期間
2026年12月31日まで 相続開始前3年(これまでと同じ)
2027年1月1日〜2030年12月31日 2024年1月1日から相続開始日までの期間(3年超〜7年未満)
2031年1月1日以後 相続開始前7年

たとえば、2028年6月に亡くなった場合は、2024年1月1日以後の約4年半分の贈与が加算の対象になります。

延長された4年分には「100万円」の控除

延長された期間(相続開始前3年超〜7年以内)に受けた贈与については、その合計額から100万円を差し引いた金額だけが加算されます。相続開始前3年以内の贈与は、これまでどおり全額が加算されます。

加算されるのは「相続などで財産を受け取る人」だけ

持ち戻しの対象になるのは、相続や遺贈で財産を受け取った人が受けていた贈与です。たとえば、相続人ではない孫(遺言で財産を受け取らない場合)への贈与は、原則として加算の対象になりません。孫への贈与が相続税対策として注目されるのは、このためです。

改正②:相続時精算課税に「年110万円」の基礎控除

相続時精算課税制度は、累計2,500万円まで贈与税がかからない代わりに、贈与した人が亡くなったときに、贈与された財産をすべて相続財産に加算して相続税を計算する制度です。贈与税と相続税を「精算」するイメージです。

これまでは、少額の贈与でもすべて申告と加算が必要で、使い勝手がよくありませんでした。そこで2024年1月1日以後の贈与から、年110万円の基礎控除が設けられました。

  • 年110万円以下の贈与は、贈与税の申告が不要
  • 年110万円の基礎控除の部分は、相続財産に加算されない(暦年贈与のような7年の持ち戻しもない)
  • 年110万円を超える部分は、累計2,500万円の特別控除から差し引き、超えた分に20%の贈与税

この改正によって、相続時精算課税は、毎年110万円を、持ち戻しなしで贈与できる制度としても使えるようになりました。

どちらの制度が向いている?

状況 向いている制度の考え方
財産が多く、相続税の税率が高くなりそう。贈与できる期間が長い 暦年贈与で、贈与税の税率が相続税の税率より低い範囲で、少しずつ長期間にわたって贈与する方法が検討される。相続人でない孫への贈与も選択肢
贈与する人が高齢で、7年以内に相続が発生する可能性が高い 暦年贈与は持ち戻される可能性がある。相続時精算課税の年110万円の基礎控除は加算されないため、有利になる場合がある
相続税がかからない見込み(遺産が基礎控除以下) 相続時精算課税で、まとまった資金(たとえば住宅資金や事業資金)を早めに渡しやすい
値上がりが見込まれる財産や、家賃収入を生む財産を渡したい 相続時精算課税は贈与したときの価額で加算されるため、その後の値上がり分や家賃収入は相続財産に含まれない

どちらが有利かは、財産の額、相続人の数、贈与する人の年齢、渡したい財産の種類などによって大きく変わります。一度相続時精算課税を選ぶと、その贈与者からは暦年贈与に戻れないため、試算をしてから選びましょう。

祖父母から孫へ財産を渡す場合

祖父母から孫へ財産を渡す方法には、生前に贈与する方法と、相続(遺言による遺贈など)で渡す方法があります。孫へ直接渡すと、子の世代の相続を1回飛ばせるため、長い目で見て相続税の負担を抑えられることがあります。ただし、渡し方によって税金の扱いが大きく変わります。

孫への暦年贈与:持ち戻しの対象外になりやすい

暦年贈与の持ち戻し(最長7年)の対象になるのは、相続や遺贈で財産を受け取った人への贈与です。孫は通常、相続人ではないため、祖父母の相続のときに財産を受け取らなければ、生前に受けた贈与は相続財産に加算されません。

ただし、次のような場合は、孫も「財産を受け取った人」になり、持ち戻しの対象になります。

  • 祖父母の遺言で、孫が財産を受け取った(遺贈)
  • 祖父母が保険料を払っていた生命保険金の受取人が孫だった
  • 孫が祖父母と養子縁組をしていて、相続人になっている
  • 孫の親(祖父母の子)がすでに亡くなっていて、孫が代襲相続人になっている

孫への生前贈与を相続税対策として考える場合は、相続のときに孫が財産を受け取るかどうかもあわせて確認しておきましょう。

18歳以上の孫と18歳未満の孫で変わること

孫が贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上かどうかによって、贈与税の税率や使える制度、手続きが変わります。

18歳以上の孫 18歳未満の孫
暦年贈与の税率(年110万円を超えた部分) 低めの特例税率(祖父母・父母からの贈与) 一般の税率(一般税率)
相続時精算課税 使える(祖父母が60歳以上の場合) 使えない
贈与契約 孫本人が受け取ることに同意し、贈与契約書に署名する 親権者(孫の親)が代わりに同意し、契約書に署名する
受け取った財産の管理 孫本人が管理する 親権者が管理する。祖父母が通帳や印鑑を持ったままだと名義預金と判断されるおそれ
教育費・生活費を必要な都度払う場合 年齢にかかわらず、贈与税はかからない

贈与税の税率表(一般税率と特例税率)

基礎控除後の課税価格 一般税率(18歳未満の孫など) 特例税率(18歳以上の孫など)
200万円以下 10% 10%
200万円超〜300万円以下 15%(控除額10万円) 15%(控除額10万円)
300万円超〜400万円以下 20%(控除額25万円)
400万円超〜600万円以下 30%(控除額65万円) 20%(控除額30万円)
600万円超〜1,000万円以下 40%(控除額125万円) 30%(控除額90万円)
1,000万円超〜1,500万円以下 45%(控除額175万円) 40%(控除額190万円)
1,500万円超〜3,000万円以下 50%(控除額250万円) 45%(控除額265万円)
3,000万円超〜4,500万円以下 55%(控除額400万円) 50%(控除額415万円)
4,500万円超 55%(控除額640万円)

※贈与税額 =(その年の贈与額の合計 - 110万円)× 税率 - 控除額。

例:祖父母から孫へ上場株式を渡す場合

祖父が持っている上場株式(1株5,000円 × 1,000株 = 時価500万円)を、孫に無償で渡す(贈与する)場合を考えます。その年、孫はほかに贈与を受けていないものとします。

渡し方 18歳以上の孫 18歳未満の孫
1年で全部(500万円)を暦年贈与 (500万円 - 110万円)× 15% - 10万円 = 48.5万円(特例税率) (500万円 - 110万円)× 20% - 25万円 = 53万円(一般税率)
毎年200株(100万円)ずつ、5年に分けて暦年贈与 毎年110万円以下のため贈与税0円 毎年110万円以下のため贈与税0円
相続時精算課税で一度に贈与(祖父が60歳以上) 500万円 - 110万円 = 390万円を特別控除(2,500万円)から差し引き、贈与税0円。ただし、390万円は祖父の相続のときに相続財産に加算される 使えない

同じ500万円の株式でも、孫の年齢と渡し方によって、贈与税は0円から53万円まで変わります。5年に分けて贈与する方法は、毎年の贈与税はかかりませんが、株価が上がれば後半の年の贈与額が増え、110万円を超えることもあります。また、最初から「5年で1,000株を渡す」と約束していたと判断されると、まとめて贈与したものとして課税されるおそれがあります(定期贈与)。毎年、その年の株価を見て、贈与契約書を作ってから贈与しましょう。

株式を渡すときのポイント

  • 上場株式の評価額:贈与した日の終値と、その月・前月・前々月の終値の月平均額のうち、最も低い価額で評価できる。株価が高い時期を避けると、贈与額を抑えられることがある
  • 口座の移し替え:証券会社で、祖父の口座から孫名義の口座へ株式を移す手続きをする。18歳未満の孫の場合は、親権者が手続きを行う未成年者口座が必要になる
  • 受け取った後の配当や売却益:孫が受け取る配当や、将来売ったときの利益は孫の所得になる。売却するときの取得費は、原則として祖父が買ったときの価額を引き継ぐ
  • 「譲渡(売買)」にする場合:孫が祖父から株式を買い取る場合は、祖父の側に譲渡所得(売却益への税金)がかかる。時価より著しく安い価額で売ると、差額が贈与とみなされて孫に贈与税がかかることがある
  • 自社株(非上場株式)の場合:評価の方法が複雑で、事業承継のための特例もある。税理士に相談して進める

孫への相続時精算課税

相続時精算課税は、60歳以上の祖父母から18歳以上の孫への贈与にも使えます。年110万円の基礎控除の部分は相続財産に加算されませんが、それを超えて特別控除(累計2,500万円)を使った部分は、祖父母の相続のときに相続財産に加算されます。その結果、孫も相続税の申告・納付が必要になることがあり、後述の2割加算の対象にもなります。

孫が相続で財産を受け取ると「2割加算」

祖父母の相続で、孫が遺言や生命保険金などによって財産を受け取った場合、孫が納める相続税は2割増しになります(相続税額の2割加算)。一世代を飛ばして財産を渡すことへの調整です。

孫の立場 2割加算
遺言(遺贈)や生命保険金で財産を受け取った孫 対象
祖父母の養子になっている孫(孫養子) 対象(代襲相続人でもある場合を除く)
親が先に亡くなっていて、代襲相続人になった孫 対象外

孫を養子にする場合の注意点

孫を祖父母の養子にすると、法定相続人が1人増え、相続税の基礎控除が600万円増える、生命保険金や死亡退職金の非課税枠が増える、といった効果があります。一方で、孫養子が相続する財産には2割加算がかかり、法定相続人の数に含められる養子の数にも上限があります。また、相続人どうしの関係にも影響するため、税金だけで判断しないことが大切です。

教育費・生活費は「必要な都度」なら非課税

祖父母が孫の学費や生活費を、必要なときに、必要な分だけ直接支払う場合は、そもそも贈与税がかかりません(扶養義務者からの通常必要な教育費・生活費)。ただし、まとめて渡して預金や投資に回した場合は、贈与税の対象になります。入学金や授業料などは、学校へ直接振り込むなど、使い道がはっきりわかる形で支払うと安心です。

孫が未成年の場合

孫が未成年のときに贈与する場合は、親権者(孫の親)が贈与を受けることに同意し、贈与契約書に署名しておきましょう。孫名義の口座を祖父母が管理し、孫や親が自由に使えない状態だと、名義預金として祖父母の財産と判断されるおそれがあります。

相続時精算課税の注意点

  • 暦年課税に戻れない:選択届出書を出した贈与者からの贈与は、ずっと相続時精算課税になる
  • 小規模宅地等の特例が使えない:相続時精算課税で贈与した土地は、相続のときに小規模宅地等の特例の対象にならない。自宅や事業用の土地は、相続で渡したほうが有利な場合がある
  • 値下がりした財産も贈与時の価額で加算:贈与した後に価値が下がった財産も、原則として贈与したときの価額で相続財産に加算される(2024年以後、災害で被害を受けた土地・建物には一定の救済がある)
  • 不動産の贈与は登録免許税・不動産取得税がかかる:相続で取得する場合より、手続きの税負担が重くなることがある

小規模宅地等の特例については、「相続税の基礎控除と『小規模宅地等の特例』の入門」で解説しています。

暦年贈与で気をつけたいこと

  • 「名義預金」にしない:親が子ども名義の口座にお金を入れていても、通帳や印鑑を親が管理し、子どもが自由に使えない状態なら、贈与ではなく親の財産(名義預金)と判断され、相続財産に含まれることがある
  • 贈与契約書を残す:贈与する人と受け取る人の双方が合意したことを示すため、毎回、贈与契約書を作成しておくと安心
  • 毎年同じ時期・同じ金額は注意:「最初からまとめて渡すことを約束していた(定期贈与)」と判断されないよう、毎年の贈与は、その都度判断して行う
  • 110万円を超えたら申告する:年110万円を超える贈与を受けた人は、翌年の2月1日から3月15日までに贈与税の申告が必要

贈与を始める前のチェックリスト

  1. 相続税がかかるかどうかの見込みを確認する(基礎控除と財産の額)
  2. 贈与する人の年齢と、贈与できる期間の見通しを考える
  3. 誰に(子・孫)、何を(現金・不動産・株式など)渡したいかを整理する
  4. 自宅や事業用の土地は、小規模宅地等の特例との関係を確認する
  5. 暦年贈与と相続時精算課税で、税額を試算して比べる
  6. 贈与契約書の作成、口座の管理方法、申告の要否を確認する

家計や事業のお金を整理しておくなら

生前贈与を計画的に進めるには、贈与する人の財産の全体像を把握しておくことが大切です。個人事業主の方は、日ごろから会計ソフトで事業の帳簿をつけておけば、事業用の財産と個人の財産を区別しやすくなり、相続や事業承継の準備もスムーズに進められます。

代表的なサービスとして「マネーフォワード クラウド」と「freee会計」があります。無料で試せるプランが用意されていることも多いので、実際の画面を触って使いやすいほうを選ぶのがおすすめです。

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まとめ

  • 暦年贈与は年110万円まで非課税。ただし、2024年以後の贈与は、相続開始前最長7年分が相続財産に加算される(延長された4年分は合計100万円を控除)
  • 持ち戻しの期間は2027年以後の相続から段階的に延び、2031年以後の相続で7年になる
  • 持ち戻しの対象は相続などで財産を受け取る人への贈与。相続人でない孫への贈与は原則対象外
  • 祖父母から孫へは、相続のときに孫が財産を受け取らなければ暦年贈与は持ち戻されない。遺言・生命保険金・養子縁組で孫が財産を受け取ると持ち戻しと相続税の2割加算の対象に。教育費・生活費を必要な都度払うのは非課税
  • 相続時精算課税は、累計2,500万円の特別控除に加え、2024年から年110万円の基礎控除(相続財産に加算されない)ができた
  • 相続時精算課税は暦年課税に戻れない、贈与した土地に小規模宅地等の特例が使えないなどの注意点がある
  • どちらが有利かは、財産の額・年齢・渡す財産で変わる。制度は改正されることがあるため、最新の情報を確認し、試算してから選ぶ

生前贈与は、早く始めるほど選択肢が広がります。ルールが変わったいまこそ、家族で財産の全体像と渡し方を話し合い、自分たちに合った方法を選びましょう。具体的な判断は、税理士などの専門家に相談しながら進めることをおすすめします。

※本記事は2026年11月時点の税法の情報をもとにした一般的な説明です。贈与税・相続税の制度は改正されることがあるため、実際に贈与を行う際は国税庁の最新情報を確認し、個別の判断については税理士等の専門家にご確認ください。

“生前贈与の選び直し|暦年贈与(年110万円)と相続時精算課税制度の違いと、持ち戻し期間が7年になった改正” に対して1件のコメントがあります。

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